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仙台高等裁判所秋田支部 昭和43年(ネ)41号 判決 1973年3月19日

主文

原判決中控訴人に金三一三万四、〇一四円およびこれに対する昭和三九年四月二六日以降完済まで年六分の割合による金員をこえる金員の支払いを命じた部分を取消す。

右取消部分の被控訴人の請求を棄却する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

被控訴人の附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を被控訴人の負担とし、一を控訴人の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、反訴原告。以下控訴人という。)代理人は本件控訴につき、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、附帯控訴につき「本件附帯控訴を棄却する。」との判決を、反訴について「反訴被告(被控訴人)は反訴原告(控訴人)に対し、金五四〇万二、五四六円およびこれに対する昭和三八年一二月二二日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。反訴費用は反訴被告の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人(附帯控訴人、反訴被告。以下被控訴人という。)代理人は本件控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を、附帯控訴につき「原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。控訴人は被控訴人に対し金六九七万五、二〇〇円およびこれに対する昭和三九年四月二六日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、「控訴人の反訴の提起に同意しない。」とのべた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、次のとおり附加するほか、原判決事実欄の記載のとおりであるから、これを引用する。但し原判決第四枚目表八行目の「一二月一一日」とあるを「九月二八日」と改め、第六枚目表四行目の「金八三二万六、二五〇円」とあるを「金八三二万六、五〇〇円」と訂正し、第六枚目表一行目および七行目にそれぞれ「対等額」とあるをいずれも「対当額」と訂正する。

一、控訴代理人は、本訴請求原因事実に対する答弁および抗弁の各補足として次のとおりのべた。

(一)  答弁の補足

本件叺の売買代金の支払いについては、約定総量一七万枚をその引渡場所で引渡し、控訴人がこれを検査したのちで、引渡後九〇日目の日を支払期日とする旨が定められていた。ところが被控訴人はこのうち一二万八、一〇〇枚を除くその余の引渡しをしないので、代金債務の履行期は未到来である。

本件叺の引渡場所が抽象的に「置場」として約定されたことは認めるが、置場の具体的内容は被控訴人の主張するところとは異なり、控訴人が本件叺を被控訴人から引取つて保管していた場所、即ち北海道室蘭港の埠頭倉庫である。なお、控訴人が引渡しを受けたうちの二万枚は、昭和三九年二月一五日頃控訴人の青森出張所で受領した。

(二)  抗弁の補足

(1)  控訴人が本件叺の瑕疵を被控訴人に通知した日は、昭和三九年二月九日頃、一四日頃および二七日の三回であり、このうち三回目は内容証明郵便で、その余は口頭で通知した。

右通知に関しては、当事者間に次のような合意があつた。

即ち、本件叺が穀用に使用され、北海道の各農業協同組合連合会に売却されるべきものであつたことから、控訴人において引渡しを受けたものを室蘭港埠頭倉庫で検査し、代金支払期日(引渡後九〇日目)までに瑕疵を発見した場合は、この期間内にその旨控訴人に通知すれば代金減額乃至損害賠償を請求できる、との合意である。

のみならず、右当時、同業者間に右合意と同様な商慣習があり、当事者双方がこれによる意思であつた。

仮に右合意および商慣習がなかつたとしても、本件叺の瑕疵は商法第五二六条にいう直ちに発見することのできないものであつたところ、控訴人は受取後二週間以内に前記のとおり通知したものである。

(2)  前記通知の内容は、一二万八、一〇〇枚の代金を一枚当り二〇円、総額金二五六万二、〇〇〇円に減額すべき旨、若しくは瑕疵によつて本来の転売価格よりも低額にしか転売できなかつたことによる損害金五七六万四、五〇〇円の賠償を求め、且つこの賠償請求債権を以て、引渡ずみ分の総代金八三二万六、五〇〇円と対当額で相殺する旨の意思表示である。この意思表示はおそくとも前記二月二七日頃に被控訴人に到達した。

(3)  仮に右(2)の意思表示をした事実が認められない、としても、控訴人は昭和四四年七月七日の当審第五回口頭弁論期日に被控訴人に対し、右と同一の理由に基づき同一内容の損害賠償請求および相殺の意思表示をした。

(4)  仮に右相殺の主張が容れられないとしても、控訴人は被控訴人から前記損害金の支払いを受けるのと引換えでなければ一二万八、一〇〇枚分の代金の請求に応じられない。

(5)  硫酸銅の売渡代金債権による相殺の主張(原判決第四枚目表2(1))を次のとおり補足訂正する。

控訴人の被控訴人に対する売掛残代金九四万〇、七八六円は、昭和三八年九月二八日現在のものであり、売掛品目は硫酸銅のほかに釘を含む。

(6)  控訴人は本件一二万八、一〇〇枚の叺につき被控訴人の負担すべき運送料金一二六万七、九九九円、倉庫保管料金六万九、二〇七円、合計金一三三万七、二〇六円を被控訴人との合意により立替支払いし、その償還請求権を有するので、昭和四四年一〇月二〇日の当審第六回口頭弁論期日に、これを以て一二万八、一〇〇枚の代金債務と対当額で相殺する意思表示をした。

(三)  抗弁の補足(相殺の抗弁の順序)

(1)  前記代金減額請求後に残る控訴人の叺代金債務金二五六万二、〇〇〇円に対し、被控訴人の有する次の反対債権で、次の順序に相殺の抗弁を主張する。

(イ) 叺の運送料および保管料の償還請求債権(前記(二)(6))金一三三万七、二〇六円

(ロ) 硫酸銅および釘の昭和三八年九月二八日現在の残代金債権(前記(二)(5))金九四万〇、七八六円

(ハ) 違約金債権(原判決第五枚目表(4)裏(5))金二八三万四、六四〇円

(二)  昭和三八年一二月一一日付硫酸銅の売買残代金債権(原判決第四枚目表2(2)、第五枚目表(3))金五四〇万二、五四六円

(2) 前記代金減額請求の認められない場合、一二万八、一〇〇枚の叺の代金債務金八三二万六、五〇〇円に対し、右(1)の(イ)、前記(ニ)の(2)、右(1)の(ロ)、同(ハ)、同(ニ)の順序で相殺の抗弁を主張する。

二、控訴代理人は、反訴請求原因として次のとおりのべた。

(一)  当事者双方は、被控訴人主張のとおりの業を営むものである。

(二)  控訴人は昭和三八年一二月一一日被控訴人との間で硫酸銅七〇・〇二トンを売渡す契約をした。その内容は本訴に対する抗弁として主張したところ(原判決第四枚目表一一行目以下第五枚目表二行目まで)と同じである。なお現物は同年一二月一二日に一〇・〇二トン、同月一七日に一四・〇一トン、同月一八日に一四・〇一トン、同月一九日に一七・〇四トン、同月二〇日に七・五トン、同月二一日に七・四四トンの六回にわけて引渡しを了した。ところが被控訴人は金七五万九、二一四円を支払つたのみで、その余の支払いをしない。

(三)  よつて残代金五四〇万二、五四六円とこれに対する支払期日後である同年同月二二日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(四)  なお控訴人は、被控訴人の本訴請求に対する相殺の抗弁が認められ、且つ自働債権(前記一(三)(1)(ニ))が残ることを条件として反訴を提起するものである。

三、被控訴代理人は次のとおりのべた。

(一)  本訴請求原因(二)(原判決第二枚目表八行目)の引渡場所である「置場」とは、被控訴人が何時でも叺を引渡しうる準備を整えて控訴人に通知した時にこれが現に置かれてある工場または倉庫を意味する。

被控訴人は控訴人の運搬した一二万八、一〇〇枚は勿論、その余の四万一、九〇〇枚についても、何時でもこれを現に置かれてある場所で引渡しうるような準備を了し、控訴人に通知して引渡したが、控訴人は室蘭の倉庫が一杯で受入不能との自己だけの一方的な理由で四万一、九〇〇枚を運搬しなかつたものである。

従つて本件売買代金の支払期日は到来している。

(二)  控訴人の抗弁事実および反訴請求原因事実について。

(1)  本件叺に瑕疵があつて損害を生じたとの事実はこれを否認する。瑕疵があつたとの通知は昭和三九年二月二七日付の内容証明郵便によるものが最初であり、その前に二度口頭で通知を受けたことはない。また右文書によるものも内容が虚偽であつて、瑕疵の通知というに値しない。控訴人主張のような減額請求乃至損害賠償請求についての合意の事実はこれを否認する。商慣習の存在は知らない。

なお控訴人主張の昭和四四年七月七日になされた損害賠償請求の意思表示は、控訴人が瑕疵を知つて一年以上を経過したのちになされたものであるから、この請求は許されない。

(2)  控訴人主張の運送料および保管料立替えの事実はこれを否認する。本件叺は前記のとおり置場渡しで引渡されたものであるから、控訴人がこれを引取るについて要した運送、保管の費用はすべて控訴人自らの負担すべきものである。

(3)  反訴請求原因事実に対する答弁は、本訴の抗弁事実に対してのべたところと同様である。

四、立証(省略)

理由

第一、本訴請求について。

一、被控訴人主張の請求原因(一)(二)の事実は、本件叺の引渡場所として約定された「置場」の趣旨の点を除いて当事者間に争いがない。

右「置場」の趣旨については、成立に争いのない甲第二号証中、引渡場所および被控訴人による引取の方法に関する定めである「置場渡、当方引取」との文言、原審第二回証人岩瀬昭郎の証言ならびに原審および当審における被控訴本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、叺が製造されたのちに保管されている農業協同組合の倉庫等、被控訴人においてこれを控訴人に引渡すべき旨を通知した時点において現に置かれている場所を意味するものと認められ、証人島谷正三の第二回証言ならびに原審(第一回)および当審証人岩瀬昭郎の証言中右認定に反する部分は右各証拠に照らして措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はないので、右「置場」の趣旨に関する控訴人の主張は採用できない。

二、被控訴人主張の叺の引渡数量中、昭和三九年一月二五日分六万〇、三〇〇枚のうち一万八、四〇〇枚をこえる四万一、九〇〇枚を除き、その余の合計一二万八、一〇〇枚が控訴人に被控訴人主張のとおりに引渡されたことは当事者間に争いがない。この枚数に前記争いのない単価を乗ずれば、その代金は金八三二万六、五〇〇円である。

右争いのない数量をこえる叺の引渡しの事実については、原審および当審における被控訴本人尋問の結果中これを引渡したとの部分は、証人内山勝栄の証言によつて被控訴人自身仕入先である尾上町農業協同組合からその引渡しを受けないままに終つたとうかがわれる事実に照らして措信できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

なお、右認定の引渡された叺の代金の支払期日について控訴人は、約定にかかる一七万枚の総数が引渡されない限りは引渡しずみ分の支払期日も到来しない旨主張する。しかしながら、まず証人倉内米吉、前掲証人内山の各証言および原審における被控訴本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、前記四万一、九〇〇枚は、控訴人において室蘭港埠頭倉庫に余裕がなく引取れない旨を被控訴人に明らかにしたことから、被控訴人においても仕入先からその引渡しを受けることを控えたために控訴人に引渡されなかつたものと認められるところ、前掲甲第二号証に代金支払方法として、控訴人の引取後九〇日の約手払いとする旨のみが記載され、控訴人主張のような約定が特記されていない事実ならびに本件叺の引渡しが給付の性質上可分であること明らかな事実および控訴人が右総数の引渡しを受けない限りはその理由の如何に拘りなく代金の全額を支払えない等の特段の事情のあつたことを認めるに足る証拠のない点をあわせ考えれば、本件叺については、右のように控訴人自ら一部を引取らなかつた場合についてまで引渡しずみ分の代金支払期日が到来しないとの約定があつたものではなく、このような場合は引渡しずみ分の支払期日はこれらを引渡しおわつた日の九〇日のちとする約定であつたと認められる。よつて控訴人の右主張は採用できない。

三、控訴人の抗弁について検討する。

まず、被控訴人主張の相殺禁止の特約についての当裁判所の判断は、原判決第一〇枚目裏四行目以下第一一枚目表五行目までに記載の原裁判所の判断と同じであるから、これを引用する。

(一)  控訴人主張の代金減額または損害賠償の請求に関する合意の事実については、当審証人岩瀬昭郎の証言中これに副う部分は当審における被控訴本人尋問の結果と弁論の全趣旨に照らして措信できず、他にこれを認めるに足る証拠はなく、商慣習の主張については、右証人岩瀬の原審第一、二回および当審証言中これがあつたとする部分は、右第一回証言中の青森方面にそのような慣習があるか否か知らないとの部分および弁論の全趣旨に照らしてたやすく措信できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

また控訴人が引渡しを受けたこと当事者間に争いのない前記一二万八、一〇〇枚の叺について、控訴人主張のように瑕疵がありその旨被控訴人に通知したとしても、そのゆえに代金減額を請求できるいわれはない。

(二)  控訴人は昭和三九年二月九日頃および同月一四日頃に口頭で、同月二七日に書面で、瑕疵に基づく損害として金五七六万四、五〇〇円を被控訴人に請求し且つ相殺の意思表示をした旨主張するけれども、成立に争いのない乙第五号証も右損害賠償の請求および相殺の意思表示をした事実を認める証拠とするに足らず、他にこれらの事実を認めるに走る証拠はない。

(三)  控訴人が右損害金を昭和四四年七月七目の当審第五回口頭弁論期日に主張したことは当裁判所に顕著な事実であるけれども、右乙第五号証と弁論の全趣旨によれば、控訴人がその主張の瑕疵をおそくとも前記二月二七目に知つたことが認められ、控訴人の右主張は法定の一年の除斥期間経過後になされたことに帰するのでこれを採ることができず、したがつて右七月七日の相殺の意思表示は効果を生ずるに由ない。

(四)  右のとおり控訴人の瑕疵に基づく損害金の主張が除斥期間経過後になされたものである以上、控訴人の引換給付の主張は理由がない。

(五)  硫酸銅および釘の売掛金債権について考える。

(1) いずれも証人本館誠一の証言によつて成立を認めうる乙第八号証の二、第一四号証と右証言によれば、控訴人において昭和三七年五月以降昭和三八年九月二七日に至る間被控訴人に六回に亘つて硫酸銅計三二・〇一トンを代金一トン当り金九万円乃至一〇万八、〇〇〇円で売却し、同年七月九日釘三七四樽を代金一樽当り金二、六七〇円乃至二、七五〇円で売却し、以上の間にこれら代金の一部の支払いを受けるなどして同年九月二八日当時残代金九四万〇、七八六円となつたことが認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。なお右乙第八号証の二のうち、右硫酸銅および釘の売買に関する部分については、同号証中次の(2)でふれる昭和三八年一二月一一日付硫酸銅の売買代金額部分とは異なり、真実の取引と合致しない事実を特に記載した等の事情をうかがうに足る証拠はない。

(2) 昭和三八年一二月一一日付硫酸銅の売買契約についての、当事者間に争いのない事実ならびに争いのない額(金五九五万一、七〇〇円)をこえる売買代金および損害金の特約についての当裁判所の判断は、真実に合致しない書類の作成された事情として原判決第一二枚目表七行目「作成されたこと」の次に、「その事情は、被控訴人が控訴人から買受けて他に転売した右七〇・〇二トンの硫酸銅の各売買価格が、生産者同和鉱業株式会社と取引業者との右一二月当時の協定価格よりも低廉であり、控訴人において協定違反の責任を追及されるおそれを生じたことから、書類上真実の売買価格よりも高価に、協定に違反しない価格を記載したものであつたこと」と附加し、同表一一行目「乙第八号証の二」とあるを「乙第八号証の二のうち一二月二四日欄の単価額」と改めるほか、原判決第一一枚目裏三行目以下第一二枚目裏四行目「採用できない。」までに記載の原裁判所の摘示および判断と同じであるからこれを引用し、右引用部分に続けて「前掲当審証人岩瀬の証言中控訴人主張の特約があつたとする部分は右被控訴本人尋問の結果に照らして借信できない。」と附加する。

(六)  控訴人主張の叺の運送料、倉庫保管料の立替支払いの約定の事実については、前掲当審証人岩瀬の証言中これに副う部分は、本件叺の引渡場所が引渡すべき旨通知のあつた時点の現在場所として約定されたこと前記判示によつて明らかである事実に照らしてたやすく措信できない。のみならず、原審における被控訴本人尋問の結果によつて成立を認めうる甲第三号証、右証言によつて成立を認めうる乙第一三号証と右証言および弁論の全趣旨によれば、被控訴人は本件叺を一枚金五八円で仕入れ金六五円で控訴人に売り、一枚当り金七円、総数一七万枚で金一一九万円の売買差益を上げる予定であり、一方控訴人は一枚金六五円で仕入れて金八六円で他に売却し、一枚当り金二一円、総数で金三五七万円の差益を上げる予定であつたもので、これに対し控訴人において立替分として主張する経費としては金一二六万円をこえる支出のなされていることが認められるので、被控訴人においてこのような高額に達する経費を自ら負担する意思で控訴人にその立替を依頼することは右差益との比較からしても考え難いところである。その他右約定の事実を認めるに足る証拠はない。

以上の次第で、控訴人の主張する代金減額請求の抗弁、叺の瑕疵に基づく損害賠償債権による昭和三九年二月二七日付、同じく昭和四三年二月二一日付、同じく昭和四四年七月七日付、硫酸銅の売買に関する違約金債権による昭和三九年一一月二〇日付、運送料等の償還請求債権による昭和四四年一〇月二〇日付、各相殺の抗弁および引換給付の抗弁はいずれもその余の点にふれるまでもなく理由がない。

控訴人において硫酸銅等の売掛代金として昭和三八年九月二八日当時被控訴人に対し金九四万〇、七八六円の債権を有し、また同年一二月一一日金五九五万一、七〇〇円の債権を取得したことは前記(五)判示(原判決引用を含む)のとおりであるところ、被控訴人においてこれらの一部弁済として控訴人主張のとおりに合計金一七〇万円を支払つたことは当事者間に争いがなく、この弁済について特段の充当の意思表示がなされた等の事実を認めるに足る証拠はないので、右弁済金中金九四万〇、七八六円は同額の右残債権の弁済に充当され、残る金七五万九、二一四円が右金五九五万一、七〇〇円の債権の弁済に充当され、結局金五九五万一、七〇〇円中金五一九万二、四八六円が残ることとなる。

控訴人が昭和三九年一一月二〇日の原審第一回口頭弁論期日に右残る額を含む債権を自働債権とし本訴請求債権を受働債権として被控訴人に対する相殺の意思表示をしたことは記録上明らかである。本件叺一二万八、一〇〇枚の代金支払期日が昭和三九年四月二四日であることは前記一、二の判示によつて明らかであり、右残る額の支払期日が同日までに到来したことは弁論の全趣旨によつて認められるところである。

よつて前記二判示の叺代金八三二万六、五〇〇円の債権中金五一九万二、四八六円は控訴人の被控訴人に対する同額の硫酸銅代金債権と対当額で昭和三九年四月二四日を基準日として相殺されたこととなる。残額は金三一三万四、〇一四円である。

四、以上の次第で、被控訴人の本訴請求は金三一三万四、〇一四円およびこれに対する控訴人の求める昭和三九年四月二六日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による金員の支払いの請求の限度で理由があるが、その余は理由がないので、原判決中右理由のある限度をこえて控訴人に金員の支払いを命じた部分を取消し、該部分の請求を棄却し、被控訴人の附帯控訴は理由のないものとしてこれを棄却すべきである。

第二、反訴請求について。

控訴人の当審における反訴の提起について被控訴人は同意しないが、控訴人は、本訴請求に対して主張する数個の相殺の抗弁が認められて、硫酸銅代金債権金五四〇万二、五四六円の全部または一部を相殺に供することなく本訴請求が棄却される場合を予定し、その場合のために右債権の全部または一部を反訴として予備的に請求するものであるところ、右債権の全部が相殺によつて消滅したこと前記認定のとおりであるから、控訴人の反訴はその適法性について判断するまでもなく申立がないことに帰した。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第九六条第八九条第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

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